嫌われ毒婦の白い結婚 のはずが、最強幻獣騎士様の溺愛が始まりました⁉
 しかし、今朝聞こえてきた会話も相まって、小さな疑問は一気に膨らみ実は自分がとんでもないことをしでかしたのではないかと思えてきた。

 〈まあ、清純な妻をめとったら娶ったと信じていたのに実は毒婦だったよりはずっといいだろう。前回とは大違いだ〉
 「お前、他人事だと思って」

 テオドールはルカードの顔を振り返り、睨み付ける。

 〈本当のことを言ったまでだ。……テオ、まだあの事件を引きずっているのか?〉

 ルカードに問いかけられ、テオドールは言葉に詰まる。

 ──あの事件。七年前、テオドールが最初の結婚式を挙げた日の夜に寝室で起きた惨劇。

 忘れるはずがない。唇の端から血を零しながらこちらを睨み付ける女の形相を、今でもはっきりと覚えている。
 彼女が着ている繊細な寝間着は血で真っ赤に染まり、その中心にはテオドールの剣が突き刺さっていた。

 「そういうわけじゃない」

 〈では、毒婦だと思い込んでいたことを謝罪するんだな〉

 ルカードはさっさと行けと言わんばかりに、顎を地面につけて目を閉じた。

 テオドールはもう一度深いため息をつき、立ち上がる。その足で屋敷に戻ると、いつもと少し様子が違うことに気づいた。使用人達が明るい顔でせわしなく動き回り、どことなく浮き立っているように見える。

 (どうしたんだ?)

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