婚約破棄?   それなら僕が君の手を
 リシェルがデビューの夜会を思い出して情けない表情をしていると、アントンが爆笑している。
「リシェル、考え方を変えてみろよ。少なくともセイラはお前に結婚してくれとは言わないぞ。あいつの理想は近衛騎士だからな。」
リシェルは『目から鱗』である。
「そ、そうか。それは安心かもしれないね。では、セイラ嬢にお願いしようかな。」
にっこり笑ってリシェルが答えると、アントンは少しだけ顔を赤くして頷いた。本人は気づいていないが、リシェルがたまに見せる笑顔は、かなりの破壊力を持っている。

 数日後、リシェルとアントンは裏庭のベンチに座っていた。そこへセイラがやってくる。
「ごきげんよう、リシェル様。」
「セイラ嬢、久しぶりだね。」
リシェルが返すと
「あら、わたくしは何度もお見かけしましてよ。リシェル様がお気づきにならないだけですわ。さすが氷姫だ、とみんな言っていますもの。」
と先制攻撃を受ける。リシェルがびっくりしてアントンを見ると、苦笑している。
「セイラ、もう少し友好的になったらどうなんだ。」
「ごめんなさい。リシェル様のおかげで兄様の卒業パーティーに出られるのでしたわ。誘って頂いてありがとうございます。」
一転、セイラは制服のスカートをつまむ素振りをして淑女の礼をする。リシェルはほっとして
「こちらこそ助かったよ。ありがとう。」
と礼を言う。アントンはセイラにベンチを譲り、用事があるから、と去っていった。
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