婚約破棄?   それなら僕が君の手を
 テーブルにはメイドが運んできたお菓子やケーキ、軽食が並べられ、セイラは目を輝かせている。アントン達が持ってきたりんごもパイに乗せられている。お茶はリシェルの好きなアールグレイとジェシーが最近気に入っている東方のグリーンティーが用意されていたが、アントンもセイラもグリーンティーを選んでいる。
「体に良さそう」
というのがその理由である。

 アントンがジェシーに騎士団についていろいろ質問しているのをリシェルはにこにこしながら見ていた。セイラは時々、突拍子もない発言をしてジェシーを苦笑させているが、セイラはあまりそれを気にしていないようだ。
「ジェシーは国王陛下付き?」
リシェルが質問する。リシェルは長兄を兄様、次兄を兄さん、ジェシーはジェシーと呼ぶ。
「いや、王太子付きだよ。年齢的に近いから良かったかな。」
「そうなんだ。執務室は王宮府にあるの?」
「王宮府の隣りだな。でもリシェルの職場とは近いと思う。まあ、交代制だけどね。」
「リシェル様はどちらでお仕事されるのですか?」
今度はセイラに質問された。
「財務省だよ。以前父上が働いていたところだね。」
「財務省って忙しいって聞いたよ。」
アントンに言われる。
「父上は忙しそうだったね。今の法務省はそれほどでもなさそうだけど、まあ、下っ端と役付は違うよね。」
ジェシーが答えた。
「とりあえず上司に言われる事をやるだけだよ。」
「リシェルは頭の回転が速いから問題ないと思うよ。」
アントンはリシェルを買ってくれている。
「アントンは近衛昇格頑張れそう?」
「なんとか。ジェシー様みたいに2年では難しいかもしれないけど、がんばるよ。」
「大丈夫だよ。アントンの鍛え方は間違っていないから、あとはその筋肉の使い方だね。」
ジェシーも太鼓判を押しているので、アントンもセイラも嬉しそうだった。

 楽しい時間は過ぎて、しばらく別の場所で頑張ることになる友人をリシェルは名残惜しく見送った。
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