婚約破棄?   それなら僕が君の手を
 ルーナは10歳の時に、隣りの領地のゲイツ侯爵家長男と婚約した。侯爵家からの申し出で、自分の父親の代で領地を賜ったテイラー伯爵としても近隣の貴族と結びつきを深めるのは良いことに思えた。ゲイツ家長男のジョルジュは整った顔立ちで、ルーナにも優しく接してくれた。ルーナは去年会った男の子(ルーナは名前を忘れているがリシェルのことである)の方が美しいと思ったが、それはもちろん誰にも言わなかった。
 2つ年上のジョルジュは、よくテイラー伯爵家に遊びに来てくれた。ルーナと散歩したりお茶をしたり、時には4歳の弟と遊んでくれたり、婚約者というより、仲の良い親戚のお兄さんのようにルーナは感じていた。
 1年後、ジョルジュは学園に入る為に王都のタウンハウスに行く事になり、テイラー伯爵家にはしばらく来られないね、とルーナに告げた。
「手紙を書くよ。」
とジョルジュは約束をしてくれたが、待てど暮らせど手紙は届かなかった。
 その少し前から弟の体調が悪くなり、寝込むようになっていたのも、ルーナは不安だったが、母が馬車の事故で帰らぬ人となってしまったことは、悲しみに追い討ちをかける。テイラー伯爵も妻を失った衝撃で浮上できず、何も手につかない。
 気がついた頃には、夫人が丹精込めて育てていたバラ農園はゲイツ侯爵領に取り込まれていた。書類は正式なもので、反論の余地がない。どうすることもできず、産業を失ったテイラー伯爵領は貧しくなっていく。弟は少し良くなる事もあったが、寝込むことも多いままだ。
 ルーナは学園に入るのを迷ったが、ジョルジュに会えれば相談できるかもしれないと思い、学園の寮に入った。しかし、学園で会ったジョルジュはまるで別人だった。ルーナを見る目は冷たく、会話も、会う事すらも拒んでいるように見える。婚約者である事は否定されないが、あまり歓迎されてもいない。
< 35 / 64 >

この作品をシェア

pagetop