婚約破棄?   それなら僕が君の手を
「ルーナ嬢、またここに遊びに来てもいいかな?」
リシェルがルーナを見つめてたずねると、ルーナは目を見開いた。鳩が豆鉄砲をくらったようだ。
「あ、あの。」
「また、元気なルーナに会いに来たいな。学園の長期休暇には帰省する?」
「はい、弟も元気になりましたが、まだまだ心配です。父の手伝いをしますから。」
「では、僕も休みがもらえたら遊びに来るよ。」
「是非!」
ルーナが嬉しそうに答えてくれて、リシェルも心が弾んでいる。薔薇の香りが辺りに漂い、酔ってしまいそうだった。

 ルーナとリシェルがテイラー伯爵家に戻ると、既に全員がサロンに集まっている。その全員の視線が入ってきた二人に集中した。
 カイトはリシェルを見ると
「おや、話は終わったのかい?」
と笑顔を向けてきた。何か含みを感じる言い方だが、リシェルはなんだかわからずに
「話?」
と答えた。
 リシェルを除くその場の全員がガッカリした表情になったが、王太子がリシェルとルーナにソファに座るように言ったので、結局、リシェルは何のことだかわからないままになってしまった。
 ジェシーの隣りにリシェルが、テイラー伯爵の隣りにルーナが座る。護衛は他の騎士が務め、内情を知るセイラはルーナを王都から護衛してきた女性騎士と共に、テイラー家のメイドに代わってお茶の準備をしていた。
 王太子は少し表情を引き締めて話し出す。
「テイラー伯爵、今日はありがとう。薔薇は素晴らしく、訪問はとても有意義だった。これから以前のように薔薇のプロダクトができる事を期待しているよ。」
伯爵もそれに応えて感謝の意を述べる。
「今後の懸念事項は、領主がいなくなった旧ゲイツ領だが……。」
カイトが顎に手を当てて、考えながら話している。
「とりあえず王国の直轄地になるだろう。王国が管理をすることになるが、その担当をリシェルにしようかと思っている。」
カイトの発言にケント家の兄弟がソファから飛び上がらんばかりに驚いた。
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