政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

貴俊が腰を屈め、ゆっくり顔を近づけてくる。
今にも唇同士が重なろうとしたとき、明花は彼の胸を手で押しとどめた。

貴俊の顔が途端に曇る。〝どうして〟と〝やっぱり〟が共存しているような複雑な表情だ。


「嫌じゃないです。貴俊さんとの結婚も……キスも」


彼をいったん止めたのは、それをきちんと言葉で伝えたかったから。意見を言わず、流されてキスされたくなかったからだ。

わずかに瞠った貴俊の目に熱が宿る。胸に押し当てていた明花の手を取り、指先を絡めてエレベーターの壁に縫い留めるようにした。

近づいた唇が明花のそれと重なる。初めてキスされたときのように触れるだけで離れるかと思ったが、貴俊はその感触を確かめるように優しく食みはじめた。

貴俊が明花の腰を引き寄せて抱き込む。これまでになく体が密着し、心臓がドクンと聞いたこともないほど大きな音を立てた。

しかし戸惑いはものの数秒。甘いキスに酔いしれる。彼の舌が唇を割っても、従順に受け止めた。

窓に映る高層ビルの背がどんどん高くなっていく。
絡められる舌に必死に応え、息継ぎもままならないキスが明花を虜にする。

(このまま地上に着かなければいいのに。お願い、誰もエレベーターを止めないで)

そう願いながら貴俊の背に手を回した。
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