政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

貴俊を送り出したあと、公休の明花は中庭でコーヒーを飲もうと準備をはじめた。

ふたりのときは彼がコーヒーを淹れるのが常だが、教わったとおりに豆を挽いて抽出していく。


「いい香り」


香ばしい匂いをいっぱい吸い込む。これまで紅茶もよく飲んだが、初めて貴俊の淹れたコーヒーを飲んだときから、明花は完全にコーヒー派になった。

カップに注ぎ、庭へ出る。夏はまだ先だというのに日差しは容赦ないが、外で飲むコーヒーが格別なのもここで暮らしはじめてから知った。

庇の下に配されたテーブルにコーヒーを置き、ロッキングチェアに腰を下ろしたそのとき、インターフォンが続けざまに二度鳴った。


「誰だろう」


ここで暮らしはじめてから訪れたのは貴俊の父親だけ。それも結婚祝いにワインを届けただけだ。友人の高柳や美也子は新婚家庭にお邪魔するのは、もう少し先にすると言っているらしい。

明花にはもともと友達はおらず、強いて言えば同僚の万智とは仲良くしているが、高柳たち同様に遠慮している。
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