政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
胸が高鳴るキス


週明けの月曜日、明花はまだ誰もいない事務所の鍵を開け、掃除に取り掛かった。

片野(かたの)不動産は明花が一年前からお世話になっている代理店である。
ひとり暮らしのアパートからは徒歩圏内――といっても歩いて三十分弱かかるが――で、駅からも比較的近く人通りが多い道路に面したビルの一階に位置する。

十階建てのそのビルは片野不動産所有であり、エステやネイルのサロン、美容院が入居し、ちょっとしたトレンドスポットでもある。

従業員は経営者の片野夫妻のほかに明花を含めて二名だけという、非常にこぢんまりとした会社だ。
明花は主に窓口業務と事務全般をもうひとりの女性と担当している。

今朝はこの春一番の暖かさ。今日は先週より薄手の上着でも、ここへ歩いてくるまでに汗ばむほどだった。

窓を開け、朝一の清々しい風を室内に取り込み、フロアのモップ掛けを済ませたあとはデスクを拭き上げる。

それらがちょうど終わる頃、元気な声が事務所内に響き渡った。


「おはようございまーす! 明花さん、今日もはやーい!」
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