きみの雫で潤して

第42話 眩しさと静寂の夜

綺麗な夜景が見えるホテルの32階。
窓際に足をかけて、タバコを吸う。

煙が宙に舞った。

都会の景色は空気が汚いとか
嫌な印象を持つことの多いが、
高いところから見えるこの景色は
圧巻させられる。

イルミネーションを誰かが用意して
作ったわけじゃない。

ただ、街の電灯や、車のライト、
マンションやアパート、家々の窓から
漏れ出る電気の明かりだけで
何とも癒される。

忙しなく、生きていると
この輝きさえも忘れてしまう。

これがど田舎の田んぼだらけの町だったら、
見えやしない。
真っ暗は空間だけ。

ただ、自然に生み出される月と星が
空というキャンバスに
光り輝いている。

いつになったら、この世界を
杏菜に見せることができるのか。

湊人は、ベッドにスヤスヤと眠る杏菜を
横目に外を眺めづつけた。

真っ暗な世界にどうして耐えられるのか。

耳と感覚の世界だけでそれ以上を欲しない。
いや、きっと、敏感すぎるのかもしれない。

誰かの声に。

前髪をかきあげて、
自分のしていることは間違っているのかと
自問自答する。

心を元気にさせることが1番大事なことだってわかっているのに空回っている。

寝ている杏菜の額を撫でた。

寝ている姿は全然健常者と変わりない。

気持ちが焦る。

ふと、目をぱちっと開けた。

見えてないってわかっている。
でも見えていたらいいなと思った。

むくっと杏菜は体を起こした。


「う…。」

ベッドサイドに置いてあった
メモ帳とボールペンで何かを書き始めた。

目が見えなくても文字は書けるらしい。

小学生が書いたような落書きの文字だったが、湊人は必死で解読した。

「……カタカナだよな。
 えっと…
 『ナンデイッショニイルノ?』」

 黙って頷く。

「なんで…って言われてもなぁ。
 なんでだろうな。
 んじゃ、杏菜はなんで
 ご飯を食べるんだ?」

「……?」

 首をかしげた。

「食べたいからだろ。」

「???」

「お腹が空いたら食べるだろ。」

 静かに頷いた。

「俺は、杏菜と一緒にいたいから
 いるだけだ。
 ご飯食べたくなったっていうのと一緒。」

 そう言って、
 杏菜の頭をワシャワシャと撫でた。
 湊人はまた窓際に座って、外を眺めた。
 満月が煌々と光っていた。

「う……。」

 杏菜は、ベッドにまた横になって、 
 体にふとんをかけた。
 なんだか複雑な気持ちだった。
 理解ができない。

 体目的でもない。
 ただ、一緒にいたいだけという理由。

 確かに一緒にいられることは
 嬉しかったが、何かが満たされなかった。

 モヤモヤした気持ちのまま、
 体は疲れていたようで、
 すぐに寝ついた。

 テーブルの上で
 湊人のスマホ画面がキラッと光っていた。
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