世界の果てで、君との堕落恋愛。
「……菅生さん、いい加減あの質問に対して的確な答えをくれませんか」

「……君に話しかけることに意味なんてないよ」

「答えになっていません」


強引なわたしに、菅生さんが少しだけ動揺しているのが見て取れた。

唇を強く噛み、ポケットに入れていない手で(こぶし)を握りしめている。


「どうせ刀利サンに本当のことを話したところで、どうにもならないし……」


はぁ、と重いため息を吐かれる。

何、わたしが悪いみたいな雰囲気作っちゃって。


「もういいです。この後すぐに病院に行くので、菅生さんとこれ以上話している時間はないです。さようから」


身を翻してその場を去ろうとしたわたしを、またあの低い声が引き止めた。


「……刀利サンはさ、本当にモデル辞めて後悔しない?」


ぐっと喉が締め付けられる感覚がした。

この胸に黒く渦巻く後悔の嵐が一気に押し寄せて来そうで、怖くなった。


「……後悔なんて、しません。これはわたし自身が決めたことです」

「ふーん」


聞いた割には興味なさげにそう返す菅生さんに苛立ちを覚える。


「もう本当に行きます。菅生さんもいつまでもその格好で外うろついてると、ファンの方に見つかってしまいますよ。だから、早く戻ってください」

「……ん、分かった。でも、その前に」


菅生さんは衣装の胸ポケットから何やら高級そうな名刺を取り出して、それをわたしに差し出した。


「何か困ったことがあったら、いつでもおれに連絡して」


そう一言添え、名刺を受け取ったわたしに背を向けて颯爽と去っていく菅生さんの後ろ姿を真昼の太陽が照らしていた。
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