身代わり同士、昼夜の政略結婚
5
アステルに教えてもらった図書室の本が読めない、ベールを取ってもらう。

アステルが遠くにあると教えてくれた花が見えない、ベールを取ってもらう。


などとやっているうちに、アステルが隣にいることにも慣れ、ベールは残り二枚になった。


この国に来たときより、だいぶ前が見える。


薄ぼんやりとはいえ、アステルからもわたくしが見えているはずなのに、明らかになりつつある外見によって態度が変わらないのを、嬉しく思う。褒められも、貶されもしない。


「ミエーレ、改まって呼び出してどうしました?」


何かありましたか、とも、お困りごとでも、とも続かないのが、アステルらしい言葉選びだった。


わたくしはアステルの尽力により、この国で困らない。もし万が一困っていたらすぐに言う。このお屋敷で、何かは起きない。


そういう、自信と信頼に裏打ちされたこの人の言葉選びが、わたくしは格段に好きなのだ。


「あの、ええと」

「ゆっくりで構いませんよ」


にこにこ促すところも好き。


「ありがとう存じます」


嬉しいと思っていたのが、好き、に変わったのを、最近感じる。


わたくしは、婚約者の誠実な態度が得難いと思う。嬉しく思う。アステルが、好き。


外見は、目と口と鼻があることくらいしかまだ分からないけれど、でも、それでいい。


わたくしは、見目に惹かれたのではないもの。

みの虫なわたくしをあたたかく迎え入れ、言葉を尽くし、穏やかに笑っているこの人を、好きになったのよ。
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