こんな雨の中で、立ち止まったまま君は

「な…に…?」


 俺の膝の上で奈巳は、驚いて目を見開いている。

 その顔を見下ろしながら、俺は何も言えなかった。

 何がしたいのか、自分でもわからなかったのだ。

 ただ、混乱していた。

 さっきまでの出来事と、今ここにいる、奈巳の柔らかい体に。


「淳…?」


 小さく呟く奈巳の頬に触れると、何故だか胸が押し潰されそうになった。

 沸々と、何かが込み上げてくる。


 親指で唇に触れると、奈巳の体はびくんと反応した。

 何も言えない俺に、奈巳のほうも黙ったままで、じっと俺の目を見つめていた。



 体を屈めて、その唇にキスをした。

 奈巳はじっとしたまま動かない。


 そのまま俺は、奈巳を抱いた。

 無我夢中という言葉に近いくらい、何も考えていなかった。


 奈巳は全然抵抗しなかった。

 ただ俺の動きに合わせて、ラグの上で小さな声を上げていた。


 俺は夢中で奈巳を抱き続け、そしてそのまま奈巳の部屋に泊まった。

 隣りで眠る奈巳の肩に触れる。

 小さくて丸い。

 そして、小川さんと同じような白さだ。


 眠る前、冷静になった俺が謝ると、奈巳は首を横に振った。


「いいの」


 と言って。


 それはいつか俺が小川さんから聞いた言葉と同じものだった。

 けれど、意味は違っていた。


「淳のことが好きだったの。だからいいの」


 その言葉を聞いて、俺は何か大きな過ちを犯したような気持ちになった。

 後悔した。何てことをしてしまったのだろうと。


 けれど、こうして隣りで眠る柔らかい体を包んでいると、

 自分勝手だと言われればそれまでだけれど、ものすごく安心する。


 次の日の朝、俺は曖昧な返事をして結局奈巳と付き合うことにした。

 付き合う、ということがどういうことなのか、久方振りの事に忘れていた。


 もう、どうでもいい。

 そんな感情のほうが先に立っていた。


 
< 137 / 280 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop