こんな雨の中で、立ち止まったまま君は

 風はさっきよりも強まっている。

 この分だと、雨……、いや雪になるかもしれない。


 窓の外を眺め、傍の壁掛けの時計を見ると昼を過ぎたところだった。

 バイトの時間まで、あと3時間と少しある。

 それまでに降りだすか、終わってからになるか、

 どのみち、今夜はとても冷えるだろう。


 青いノートを閉じ、カラーボックスに押し込むと、

 ジーンズのポケットの中から携帯の着信音がした。


 圭吾か奈巳だろうと思いながら携帯を取り出して画面を見ると、

 それは意外な人物からの着信だった。


 今さら何なのか。

 いったい、何の用があるというのか。


 携帯を閉じて、テーブルの上に置いた。

 着信音が鳴り止むのはすぐだった。


 ほっとすると同時に、なぜか後悔に似た気持ちも押し寄せてくる。

 掛け直してみようか。

 そう思いながら携帯に手を伸ばしかけたとき、

 それを待っていたかのように再び着信音が鳴り響いた。


「……はい」


 こちらの感情を悟られないように声を出したつもりだった。

 しかし、分かりやすいほどに自分の声は落ちて低かった。


『もしもし、飯島です』


 受話の向こうから、落ち着いた声が聞こえてくる。

 彼はどんな時でも調子を崩さない。


 自分との違いを見せ付けられたような気持ちになるその声に、

 俺の声はますます曇ったものになった。


「なんの用ですか?」


 飯島さんは、用件だけを早口で述べてきた。

 それは、今夜会えないか、という内容のものだった。


 何故だかは分からない。

 会ってから話したいと言う。


 断ろうとした俺の声色を察してか、

 彼はそれをさせないような会話で場所の指定をし、電話を切ってしまった。


 切れた電話を握りしめながら見上げた窓の外には、

 僅かに白い粒が舞ってるような気がした。


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