こんな雨の中で、立ち止まったまま君は

-2-


 一気に書きあげたそれを公募に出し、賞がとれ、出版し、気づけば1年が流れた。


 来年から4年生になる田中は、たまにコンビニにやってくる。

 はっきりとは言わないが、やりたいことがみつかったらしい。

 来年は精いっぱい就活をすると、前よりもだいぶ落ち着いた髪色になった頭をかきながら笑っていた。
 

 圭吾と奈巳は先日大学の修了式を終えた。

 春からは社会人だ。

 二人とも地元には戻らず、こっちで就職先を決めたらしい。

 オフィスに近い場所に越すことにした二人は、今までのアパートを引き払った。

 それでも、顔を合わせようと思えばできる程度の距離にいる。

 こうしてまた3人で飲むこともできるだろう。


 俺のほうはといえば、まだあのアパートに住み、コンビニのバイトも続けている。

 特に焦りはなかった。

 以前のように、先の見えない闇の中でもがくような気分も、もう無くなっていた。



 少しずつ、出来ることを探して、やれることをやって、前に進んでいければいい。

 そう思っている。
 


< 262 / 280 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop