こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
最終章


***


 初春の雨が降りそそいでいる。

 冬のそれよりは軽く、舞い降りるようなやわらかな雨だ。


 街頭に照らされた木々が、電車の窓から遠くのほうに見えている。


 3月末、赤く色づいていた桜のつぼみが少しずつ開き始めた。

 あと数日もすればこの街にも、淡いピンク色のはなびらが舞うだろう。



 電車を降り、改札を抜ける。

 雨雲の隙間からわずかに白い月が見えていて、

 弱い明かりに照らされた街は、薄いベールをかけられたようにぼんやりと煙っていた。



 前からやってくるすれ違う人の波で、駅前通りは次第に混み始めた。

 傘を持たずに来てしまったので早足で歩いていたのだけれど、

 人が多くなるにつれて足がとられ、歩調が緩む。


 また誰かのライブでもあったのだろう。

 皆一様に楽しそうに笑いながら、揚々と駅方面へ帰っていく。


 いつもの場所に向かうため、俺は人の波に逆らいながら、十字路を右へ折れた。



< 269 / 280 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop