こんな雨の中で、立ち止まったまま君は

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 傘を持ってきていてよかった。

 図書館を出る時にはすでに暗くなり始めていた空から、

 アパートのある駅についた直後に雨粒が落ちてきた。


 それにしても本当に雨の多い秋だ。

 暦の上では明日から冬になる。

 暗い空を見上げると、自然にため息が漏れた。


 冬はいつだって容赦なく全ての熱を奪う。

 体の中まで入り込んだ冷気が気力までも奪っていくような気がして、好きじゃない。


 東京は灰色のイメージだ。

 ビルとアスファルトが圧倒的に多い。

 加えてこの天気。

 ただでさえ好きじゃない季節に灰色ばかりの景色は、ますます俺の心を錆び付かせる。


 広がる寒空に傘を突きつけて広げると、

 細かい雨があっというまにビニールを埋め尽くした。


 アパートまでの道のり、傘から滴り落ちる雫をうんざりと眺めながら歩いた。

 スニーカーは余計に水分を含んで重たくなった。


 出掛けに感じていた体のダルさは疲労に変わっていた。

 何か少し、腹に納めておいたほうがいいだろう。


 夜勤は暇とはいえ、体力の消耗は日中のそれよりも大きい。

 途中のコンビニで菓子パンを買ってからアパートに戻った。


 部屋の中は湿気が満ちていた。

 6畳一間の安アパートの窓を、重なった雨粒が滑り落ちていく。


 一階の左端のこの部屋は、

 南向きではあるけれど冬場の日の入りは晴れていても悪い。

 向かいのアパートの屋根に、遮られてしまうからだ。


 薄暗い部屋の真ん中で菓子パンをかじってからベッドに横になった。

 借りてきた本を広げてみたけれど、読む気が起こらなかった。


 そのまま目を閉じた。

 雨どいを下る水音に耳を傾けていると、睡魔が襲ってきた。

 
 バイトまでまだ時間がある。

 することもない。

 とりえず一眠りすることにした。


 冷えていた布団がじょじょに温まり、

 水音は次第に遠退いていった。


 このまま目覚めなければいいのに。


 いつの頃からかふいに浮かぶようになったその言葉が、

 薄れる意識のなかで今日も頭をよぎった。



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