こんな雨の中で、立ち止まったまま君は

 午前中から昼過ぎまでの時間、

 外には気持ちのいい青空が広がっていた。


 気になっていた洗濯を済ませて一息ついたところで、

 ソファに腰かけて借りてきた本を手にとった。


 あの後、小川さんは全部読んでしまったのだろうか。

 中間くらいにはさまれた紐のしおりを外しながら、

 そのページの文章に目を落とす。


『たった一つ浮かんでいた星が、黒い雲に覆われて今し方姿を消した』


 そんな内容が書かれていた。


 俺は最初からページを捲り、

 昼を過ぎて直接入り込まなくなった日の光のもとでゆっくりと本を読んだ。


 恋愛小説なんて…と小馬鹿にしていたくせに、

 気づくと夕方近くまで没頭してしまい、一気に読み終えていた。


 決して幸せな終わり方ではなかった。

 けれどこの話には、この終わり方が妥当なのだろう。

 作り話とはいえ、中で繰り広げられる恋愛模様に驚くほど惹きつけられている自分に驚いた。


 恋というものを、何年していないだろう。



 体調の戻った体は正直だ。

 読み終えると同時に腹がなった。


 久しぶりに感じる空腹に冷蔵庫を開けて覗いてみたけれど、

 腹の足しになるようなものは入っていなかった。


 コンビニにでも行こうかと玄関を見たときに、

 小川さんの白い傘が目に入った。


 しばらくその場で傘を眺めていたけれど、

 部屋に引き返して財布と携帯を手にし、

 もうパーカーでは持たないだろうと思った俺は、

 押入れからダウンジャケットを引っ張り出して着込んだ。


 窓越しの空は、西から伸びる光で薄くオレンジかがっている。

 冬の日の入りは早い。

 東の空は夜の黒に染まりかけていた。


 傘を手にした俺は、

 三日ぶりの冬空の下に体を放った。




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