清くて正しい社内恋愛のすすめ
　ざわざわとした社内の声に混じって、バタバタという足音が近づいてくる。

「陵介か！？」

　すると突然、切羽詰まったような相田の声が聞こえた。

　相田から話を聞いた加賀見は慌てて立ち上がると、荷物もそのままにレストランへと駆けだした。


　レストランに到着した加賀見は、受付のスタッフの制止を無視して個室に駆け込む。

　さっきまでディナーをしていた部屋は、すでにレストランのスタッフが片づけを始めていた。


「失礼。ここで、支配人と女性が食事をしていたと思うのですが」

　加賀見が声をかけると、男性スタッフは恭しく顔を上げる。

「はい。お二人はすでに食事を済まされて、こちらはお出になられております」

「もう、出た……！？」

　加賀見ははっとすると、スタッフが片づけている途中のテーブルに目をやる。

　テーブルの上には、穂乃莉が渡した企画書と名刺が無造作に置かれたままになっていた。


「どこに行ったんだ……」

　加賀見は慌ててスマートフォンを取り出し、穂乃莉の番号に電話をかける。

　しかし穂乃莉のスマートフォンは、電源が切られたままになっているようで、留守番電話サービスの音声が繰り返されるだけだった。
< 125 / 445 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop