清くて正しい社内恋愛のすすめ
 加賀見はイラつく気持ちを抑えながら、その場でじっと耐えていた。

 しばらくして戻ってきた吉村は、気まずそうに加賀見の耳元に顔を寄せる。


「お二人は、支配人の執務室に移動したようで……」

「執務室!?」

「ただ……誰も寄こすなと、きつく言われているようです」

 吉村の声に加賀見はカッと目を見開く。

 穂乃莉は支配人の部屋に連れて行かれた。


「すぐに案内してください」

 加賀見は吉村の腕を掴み、ぐっと力を込める。

「……ですが」

 小さく首を振る吉村の腕を、加賀見がじりじりと握りしめた。

「吉村さん。私は昼間にあなたと話をして、仕事に真摯に向き合う方だという印象を受けました。あなたは正しい判断ができる方だと……」

「加賀見さん……」

「吉村さん。あなたが守りたいのは“支配人”ですか? それとも、この“東雲リゾートホテル”ですか?」


 加賀見の言葉はむしろ脅しかもしれない。

 それでも今は、なりふりなど構っていられない。


 加賀見の声に吉村は深くため息をつくと、「わかりました」と小さく声を出す。

 加賀見は吉村に案内されるまま、エレベーターに飛び乗った。
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