清くて正しい社内恋愛のすすめ
「くそっ」

 加賀見はうつむくと、相田との会話を脳内で繰り返しながら、エレベーターの壁を拳で力いっぱい叩く。


 卓との電話を奪うように出た相田の声は、今まで聞いたことがない程に動揺していた。

「陵介、落ち着いて聞け。今たまたま連絡をとった、旅館の関係者から聞いたんだが……。 “東雲”の支配人に妙な噂があるらしい」

「妙な噂?」

 加賀見は眉をひそめると、小さく首を傾げる。

 相田は一瞬ためらったのち、周囲を気にしてか、声を潜めて口を開いた。


「どうも客室の一部を自分専用の部屋にして、気に入った女性を連れ込んでいるらしいと」

「は!?」

 加賀見は叫び声を上げると、呆然として立ち上がった。

「今は穂乃莉が一人で、レストランに残っているんだよな。胸騒ぎがする。早く戻れ! お前をトラブルの対応に回した俺のミスだ……」

 相田は小さく「くっ」とうめき声を漏らす。

 加賀見はしばらくその場に立ちつくしていたが、スマートフォンを耳元から離すと、そのままレストランへと駆けだしたのだ。
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