清くて正しい社内恋愛のすすめ
 加賀見は心の中で自分を納得させると、そっと身体を離そうとした。

 すると、それを引きとめるかのように、穂乃莉の腕が加賀見の首元に回る。

 穂乃莉は両手にギュッと力を入れると、加賀見の身体を引き寄せるように抱きついた。


「穂乃莉? 大丈夫なのか? 怖くないか?」

 加賀見が顔を覗き込むと、穂乃莉は赤くなった頬をぷるぷると振ってから、にっこりとほほ笑んだ。

「加賀見のキスは、魔法だから……」

 穂乃莉の言葉に吸い寄せられるように、加賀見は再び穂乃莉の唇にそっと自分の唇を重ねる。

 静かな室内に、甘い音だけが響いた。


 加賀見が何度目かのキスを落とした後、そっと目を開けた穂乃莉が、下から加賀見の顔をじっと覗き込んでくる。

「ねぇ、加賀見……」

「うん?」

「まだ私と、恋愛してくれる……?」

 穂乃莉は眉を下げ、不安そうな瞳を向けている。

 加賀見ははっと息をのんだ後、穂乃莉を抱え込むように背中に手を回し、力強くギュッと抱きしめた。


「当たり前だろ? 契約はまだまだ続くんだよ。お前が会社を辞める、その日まで……」

 加賀見は最後の言葉を打ち消すように、再び穂乃莉にキスをした。

 浅い重なりは、余裕のなくなった息づかいとともに、次第に深く深く沈み込むように絡んでいく。

 今までで一番長いキスは、やがて二人の心を温めて溶かしていった。
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