清くて正しい社内恋愛のすすめ
「穂乃莉! どう? 楽しい時間は過ごせたかしら?」

 ウキウキとした祖母の声に、穂乃莉は小さくため息をつくと、ゆっくりとスマートフォンを耳に当てる。


「おばあさま、どうして相手が東雲さんだって、言ってくれなかったの?」

「あら、だって彼が言わないで欲しいって言ったんだもの」

「それでも、こっちにも心の準備があるじゃない……」

 穂乃莉の不満げな声にも、祖母はうふふと楽しそうに笑い声を出す。

「彼、あなたに興味があるんですって」

 祖母の言葉には何も返さず、穂乃莉はソファの背もたれに寄りかかると、天井を仰ぎながら東雲のまっすぐな瞳を思い出す。


 たった一度仕事で出会った東雲が、まさか自分のことに興味を持ったなんて思いもよらなかった。

 その上、あんなにも真正面に、気持ちを伝えられるとも……。


「彼ハンサムでしょう? でもそれだけじゃないのよ。すごく切れ者だから。若き社長の中では、今一番注目されている人ね」

「そうなんだ……」

「未だに独身なことが不思議でならないって、私たちの間じゃ専らの噂なのよ」

「そう……」

 穂乃莉はふと東雲が話していた、母親との関係を思い出す。
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