清くて正しい社内恋愛のすすめ

社内恋愛スタート

「では今話したように、年明けから“東雲リゾートホテル”への営業は、穂乃莉と陵介の二人で進めてもらう」

 会議室に相田の透き通った声が響いた。

 今、国内ツアーチームは、年内最後の打ち合わせ中だ。

 相田を前に、五人がコの字で囲むように席についている。


 穂乃莉はそっと、斜め向かいに座っている加賀見の顔を盗み見た。

 あの資料室で“社内恋愛契約”を結んで以来、加賀見の顔を見るのは三日ぶりだ。

 お互い年末の挨拶回りで忙しかったのもあるが、加賀見はこんな時期に出張も入れていた。

 ペンを片手に資料を見ていた加賀見は、穂乃莉の視線に気がついたのか、目線だけを上げるとそっと切れ長の目を細める。


「今まで、アポすら取れなかったんだっけ?」

 すると急に玲子に話しかけられ、穂乃莉はドキッとして慌てて顔を上げた。

 しまった。打ち合わせ中に気もそぞろになっていた。

「は、はい。窓口になっているホテルの営業部に、一方的に断られてしまうので、全く話も聞いてもらえない状況です」

 穂乃莉は長い髪の毛を耳にかけると、気持ちを引き締めるように声を出す。
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