清くて正しい社内恋愛のすすめ
「お、おはよう」

 穂乃莉はにっこりと笑顔を見せると、手で長い髪を後ろに流しながら、平静を装って声を出す。

 それなのに、花音は小さく首を傾げた。

「穂乃莉さん、チーク変えましたぁ? 今日はクール系じゃなくて、キュート系? いつもと雰囲気が違うような……」

「そ、そんなことないと思うけど? いつも通り、いたって平常運転」


 花音は何かというと、目ざとく気がつくイマドキの女子だ。

 穂乃莉はこれ以上突っ込まれないために、目を逸らすと慌ててキーボードを叩き出した。


「もしかして、あの後、何かあったとか? あ、加賀見さん、何か知ってますぅ?」

 花音は顎に人差し指を当てると、いつの間にかデスクに戻っていた加賀見に声をかける。

「さぁ?」

 加賀見は艶のある黒髪を揺らすと、目線も上げずに穂乃莉の斜め前の席で小首を傾げた。


「穂乃莉さんは、もっとキュンキュンするべきですよぉ! 私、全力で応援しますからぁ」

 花音は可愛らしく両手をグーに握りながらほほ笑んでいる。

 穂乃莉は花音に愛想笑いだけを返すと、黙々とメールの返信を始めた。
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