清くて正しい社内恋愛のすすめ
「穂乃莉は平気だったわけ?」

「え?」

「俺は辛かったんだけど。この三ヶ月」

 加賀見は不貞腐れたような顔をしている。


 この三ヶ月間、穂乃莉は新しい仕事が、加賀見はトラベルの引き継ぎがあり、二人とも多忙を極めていた。

 そして結局一度も会えないまま、今日を迎えたのだ。


「で、でも、ビデオ通話とかしてたし……」

 取り繕うように声を出す穂乃莉に、加賀見があからさまに大きなため息をつく。

「穂乃莉はそういうとこ、意外と淡白なんだよな」

「へ?」

「俺ばっかり好きみたいで、なんか悔しい」

 口を尖らせてそっぽを向く加賀見に、穂乃莉はキョトンとしたあと、ぷっと吹き出すとくすくすと笑い出した。


「なんだよ?」

「だって、その発言って、普通は逆だなと思ったら、おかしくなっちゃって……」

「穂乃莉のせいだろ」

 加賀見はそう言うと、くすくすと笑い続ける穂乃莉の顎先を、自分に引き寄せる。


「呼び方だって、ずっと“加賀見”のままだし」

「え?」

「来年には穂乃莉も“加賀見”になるんだから、そろそろ名前に変えてくれても良いんじゃないの?」

 鼻先スレスレで声を出す加賀見に、穂乃莉はドギマギとしてしまう。

 それは穂乃莉だって気にしていたのだ。

 加賀見のことを名前で呼びたい。
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