清くて正しい社内恋愛のすすめ
「なんだよ。俺の作った企画書が高度すぎて、頭パンクしたのか?」

 加賀見に頭をくしゃくしゃと撫でられて、穂乃莉は溢れそうになる涙もそのままに加賀見を見上げた。

「バッカじゃないの?」

 穂乃莉の声は涙でかすかに震えている。

 それでも加賀見は、あははと声を上げて笑った。


 ――あぁ、そうか。私は加賀見との時間を、手放したくないんだ。


 加賀見に頭を揺すられながら、穂乃莉はその深い瞳をじっと覗き込む。


 今初めて気がついた。

 加賀見と過ごす、この一秒一秒を、自分は心から大切に思っていることを。


 ――白戸さんの名前なんて、絶対に出してあげないんだから。


 “契約恋愛”をしている三か月間、加賀見の中を自分で一杯にしたい。

 他の女の子のことなんて、考える隙も与えない程に……。


 自分も結構身勝手だなと思いながら、穂乃莉は涙をぬぐうとくすりと肩をすくめる。

 そんな穂乃莉の肩を、加賀見の温かい手が優しく抱き寄せた。

「あー、走ったら腹減ったな。何か食べて帰るか?」

「うん!」


 穂乃莉の独占欲に火をつけたのは、きっと白戸だ。

 そんな事を感謝すらしながら、穂乃莉は都会の夜空の下を、加賀見と並んで歩いて行った。
< 93 / 445 >

この作品をシェア

pagetop