離縁予定の捨てられ令嬢ですが、なぜか次期公爵様の溺愛が始まりました2
プロローグ
「どうだ、フィオナ? あんなつまらぬ男はやめて、私と結婚し直す気はないか?」
 なにを言われているのかわからなかった。
 ギュッと掴まれた手は力強く、振りほどくことができない。
 フィオナは戦慄した。だって、こんなはずではなかった。わなわなと唇を震わせながら、首を横に振る。
 ただ、自分はセドリックと一緒に隣国まで新婚旅行に来ただけなのだ。愛する夫とゆっくり蜜月を過ごす。それだけが望みだったのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう。
 夕日が沈む海のような、深い橙から蒼へ移り変わるグラデーション。不思議な色彩の瞳に射抜かれ、息を呑む。
 自分はずっと、おもちゃのような存在なのだと思っていた。
 目の前の人物、ナバラル王国第一王子クラウディオ・シェロ・エメ・ナバラルにとって、きっと。
 柔和な微笑みを湛えているが、彼がなにを考えているのかちっともわからない。フィオナのことなど全部お見通しだというように、不敵に笑っている。
 詰め襟の白いロングコートが揺れた。スリットの入ったそれは、長身の彼のスタイルを際立たせている。まさに貴公子といった美貌だが、どこか肩の力が抜けており、気怠そうだ。
 胸あたりまであるクリーム色がかった銀髪は寝乱れており、その緩さまでもが彼の色気になっている。ただ、彼の瞳には、今までになかった真剣さが滲み出ていた。
(まさか本気なの……?)
 キュッと心臓が痛んで、フィオナは身を縮こまらせた。
 どうにか彼から離れようと試みるも、ビクともしない。いくら体調を崩しているといっても、彼は大人の男性なのだ。
(嘘でしょう!? 嘘だと言ってください、殿下……!)
 今日まで、このクラウディオの屋敷の居間で、三人で談笑してきたではないか。
 彼がそこに置いてある籐で編まれたソファーに寝そべり、フィオナたちの話を聞く。気怠げな様子ながらも、柔和に笑っていたはずなのに。
 皮肉屋だが、なんだかんだ面倒見のいいクラウディオは、いつもセドリックを怒らせて遊んでいる節はあった。
 けれども、今は違う。彼が告げた言葉は、おそらく冗談などではない。
「なにを馬鹿なことを言っているのですか、クラウディオ殿下っ!」
 セドリックが慌てて駆け寄ってきて、クラウディオとの間に立つ。力任せに引き剥がし、バッと拳を振りかぶった。
 背筋が凍りつきそうな心地がした。
 だって、この日、この瞬間。
 今まで時間をかけて築き上げてきたものが、音を立てて崩れようとしていたのだから。
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