私が社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
1.策略
 クラリスは目の前の男を真っすぐに見つめた。
「クラリス、君の行為は目にあまるものがある」
 その男は、これ見よがしに肩を上下させるほどのため息をつき、顔を横に振る。
「殿下。何をおっしゃって……」
「心当たりがないとでも?」
「ありません。わたくしが何をしたとおっしゃるのでしょう?」
 クラリスは目の前の男――アルバート・ヒューゴ・ホランを睨みつけた。彼はこのホラン国の王太子である。
 耳まで隠れるさらりとした銀白色の髪、力強い紅玉の瞳、すっきりとした鼻筋に艶やかな唇と、老若男女を虜にする美貌の持ち主である。また、人格者としても知られていた。
 そんな彼の隣には、彼の婚約者でもあるハリエッタ・ジュストの姿もある。
 やわらかな翡翠色の瞳は慈愛に満ちており、豊かにうねる金色の髪。穏やかな性格の彼女は、社交界でも人気が高い。ましてジュスト公爵家の令嬢となれば、王太子の隣に並ぶ女性としてもふさわしい。
「君は、わざとハリエッタにぶつかって、彼女が手にしていた飲み物をこぼしたよね? そのせいで彼女のドレスは汚れ、退席せざるを得なかった」
「それは……」
 事実である。反論のしようがない。それも、先ほどの二人の婚約披露パーティーでの出来事だ。
「……それに。君は僕の側にいすぎなんだよ。ハリエッタという女性がいるのだから、立場をわきまえてほしい」
 それも事実。
 ハリエッタという婚約者がいなければ、アルバートの一番近くにいる女性はクラリスである。
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