Dying music 〜音楽を染め上げろ〜
第二音

新ステージ








師匠から聞かされた外部からの依頼。

しかも、ナツとしてではなくてCyanとして。外部から名指しで依頼なんて初めてで戸惑う。でもそれ以上に戸惑っていることは、




「どういうことですか?何でCyanがここに居るってことを知っているんですか?」





だってCyanのステージを見ることができる客は限られている。



ほとんどが師匠の長年の友人、そして3年以上通った常連さんだ。CyanがMidnightにいることは秘密。店のHPにはCyanとしてもナツとしても名前は一切載せていない。客はこの店に来て初めて俺の存在を知るんだ。






「依頼主は誰ですか?」

「シュートという人物からだ。」




シュート……?誰だ。




「お前、マスターのことは覚えているか?」

「はい。3丁目のクラブですよね。」

「シュートってのはマスターの店で働いている奴なんだと。」





マスターは隣の区にあるクラブの店長。ここのストリート出身で師匠とは長年の友人。


……マスターは俺の正体を知っている。でもあの人のことだ。他人に無断で口外するような人ではない。だとしたらなぜ、そのシュートという人物は俺の存在を知っている?







「俺はプライベートでしか歌ったことはありませんよ。」

「そうだよな。しかもマスターもいつ、どうやってCyanの存在を知ったのか分からないらしい。」






依頼主も情報ソースも経緯も謎。詳細不明か。警戒心が倍増する。



「…それで、依頼内容は?」

「マスターの店でのステージを希望しているらしい。」




ステージってことは、Cyanとして歌えってことか。どストレートに頼んでくる奴だな。



俺はMidnight以外で演奏や歌を歌った経験がない。理由は怖いから。俺が一番恐れていることは正体がバレること。まだ、未成年の高校生。もし俺がそういう場所に出入りしていれば、学校側に報告がいく可能性もゼロではない。それで家に迷惑もかけたくない。

Midnightには師匠がいる。情報が漏れるリスクも少ないし、広まらない。要するに守られている。



「あそこはMidnightよりハコ全体の収容人数が多い。だが、照明設備がしっかりしているから演出で顔は見えない。……社会勉強にはなると思う。」



だからってすぐにOK出せる内容じゃないんだよな。




「少し、考えさせてください。」





返事はとりあえず保留だ。
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