ミステリアスな王太子は 花嫁候補の剣士令嬢を甘く攻め落とす
王太子の花嫁候補
「いかん!いかんと言ったら絶対にいかん!」

屋敷に帰ると、ハリスはクリスティーナに噛みつかんばかりの勢いでまくし立てた。

「どんなに私が心配したと思っているのだ!いいか?無事に帰れたのは奇跡だぞ。もう二度とあのような振る舞いは許さん!」
「ですがお父様…」
「何度言ったら分かるんだ!絶対に許さんからな!」

そう言い捨てると、ハリスはバタンとドアを閉めて立ち去った。

クリスティーナは、ふうとため息をついてソファに腰掛ける。

ガルパンでの合戦で、我がコルティア軍は見事に敵の将軍部隊を制圧し帰還した。

国王にも労われ、良かったと胸をなで下ろしていたクリスティーナを、ハリスは鬼の形相で馬車に押し込み屋敷に連れ帰ってきた。

クリスティーナが、このまま近衛隊第一部隊にいさせて欲しいと言うと、頭から火が出るのでは?という勢いで猛反対されたのだった。

(確かに私があの将軍を負かせたのは運が良かっただけ。次は命の危機にさらされるかもしれない。だけど…)

クリスティーナは目に焼きついたイズールの町並みを思い出す。

まるでゴーストタウンのような不気味に静まり返った町。

ガルパンからイズールに戻り、住民が避難しているという教会を訪れると、そこには怯えたように身を寄せ合っている子ども達やお年寄りが数多くいた。

(あのイズールのような町は他にもあるのだわ。今こうしている間にも、恐怖に怯え、食べる物も手に入らず辛い時間を過ごしている人達がいる)

そう思うと、クリスティーナはいても立ってもいられなくなる。

はがゆさに、思わず父に「隊に戻ってみんなを救いたい」と訴えてみたが、案の定、いや予想以上に怒りを買った。

クリスティーナが隊に戻りたいのにはもう一つ理由がある。
それはやはり父を守りたいという思い。

右腕の怪我は良くなってきたが、屋敷に帰って来られる日はどんどん少なくなっていた。

(お父様は、毎晩のようにあのテントで眠り、気の休まらない日々を過ごしている)

自分が体験したあの非日常の出来事が、父にとっては日常なのだ。
そう思うと、クリスティーナは胸が詰まった。

何も出来ずに、ただのうのうと暮らす自分が許せず、暇を見つけては屋敷の警備隊を相手に剣の腕を磨く。

「クリスティーナ様、もうご勘弁を…」
「まだまだよ。さあ、次は誰?!」

鬼気迫る表情で、次々と自分よりもはるかに体格の良い男達を打ち負かす。

そのうちにクリスティーナは、わざと右手を封じ、かつ短剣だけで相手と戦えるまでになった。

時折屋敷に戻る度に、庭で剣を振りかざすクリスティーナを見かけ、ハリスはため息を洩らしていた。
< 13 / 52 >

この作品をシェア

pagetop