ミステリアスな王太子は 花嫁候補の剣士令嬢を甘く攻め落とす
ミステリアスな王太子
ふと人の気配を感じてクリスティーナは目を覚ます。

(誰かいる?)

シーツの下で身を固くしながら息を潜めていると、ごめん、起こしたかな?と声がした。

クリスティーナが半身を起こすと、暗闇の中、誰かがベッドの端に座るのが分かった。

「殿下?」
「ああ、すまない。なるべく静かに入って来たつもりだったんだが」
「いえ。殿下をお守りする為におそばにいるのですもの。これで起きなければ、わたくしは役立たずということになります」
「そんな…。それでは君が休まらない。俺のことは気にせずゆっくり眠ってくれ」
「そうはまいりません。わたくしは王太子様をお守りする為に、国王陛下と王妃陛下に呼ばれたのですから」
「今回の話は、父と母が勝手に進めたんだ。俺は君に守ってもらおうとは微塵も思っていない。巻き込んで悪かった。なるべく早く争いに決着をつけて、君を伯爵家に帰すよ」
「殿下…」

クリスティーナは月明かりに目を凝らして王太子を見つめる。

夕食の時は髪をサイドに流していたが、今はさらりと顔にかかっている。

うつむき加減で表情はよく分からないが、爽やかな笑顔ではない。
声のトーンも低く、どこか思い詰めたようにも感じられた。

「あの、殿下はわたくしを、いらぬ存在だと思っていらっしゃるのですか?」
「まさか!そんなことはない。ただ申し訳なくて。伯爵令嬢ともあろう君が、結婚前にこんなことに…。だが安心して欲しい。俺は決して君に触れたりしないし、危険な目にも遭わせない。君を必ず無傷で帰すと誓うよ」

数時間前は「これからゆっくり時間をかけて、お互いの距離を縮めていこう」と言っていたのに…と、クリスティーナは心の中で考える。

(あの時はロザリー達がいたから、演技をされたってことかしら。王太子様は本来こんなお方なのね)

なぜだかホッとするのを感じながら、クリスティーナは笑みを浮かべた。

「ありがとうございます、殿下」
「礼を言うのは俺の方だ。さあ、もうおやすみ」
「はい、おやすみなさい」

もう一度ベッドに横たわると、クリスティーナは安心したように再び眠りに落ちた。
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