ミステリアスな王太子は 花嫁候補の剣士令嬢を甘く攻め落とす【コルティア国物語Vol.1】
「お父様」
「クリスティーナ?!どうしてここに」

朝食の後、フィルが執務室に入ってからクリスティーナはこっそり王宮の裏庭に来た。

木陰から窓の様子をうかがうと、近衛隊の詰め所に父の姿を見つけてそっと中に身を滑らせる。

一人デスクに向かって書類を読んでいた父は、クリスティーナが呼びかけると驚いて立ち上がった。

「ここに来てはならんと言っただろう?!」
「ですが、もう私の役目は終わりましたわ。王太子様も王宮に戻られましたし、私も花嫁候補のフリをする必要はないかと」
「それはそうだが、ここは女の来る場所じゃない」
「用が済めばすぐに戻ります。お父様、私はこれからどうすれば?屋敷に帰ればいいのでしょうか?」
「うーん、それなんだがな。王太子様は特にそんなことはおっしゃっていない。それよりも、お前のお披露目パーティーをいつにしようかと考えていらっしゃる。国民の生活がもう少し落ち着いた頃に、と」

は?と、クリスティーナは目を丸くする。

「お披露目パーティー?私の、ですか?」
「ああ。お前のようなじゃじゃ馬をどうお披露目されるおつもりなのか…。とにかく今は争いの後処理が先決だ。連合国軍は戦からの撤退を表明したが、しばらくは目を離す訳にはいかない。王宮に潜んでいたスパイも見つかり、取り調べが続いている。まだまだやることは山積みだ」

ひとまずもう少しここにいて様子を見なさい、と言われ、仕方なくクリスティーナが頷いた時だった。

急に外が騒がしくなり、旦那様!と声がした。

「どうしたのだ」

ドアを開けると、ジェラルド家の使用人が馬から飛び降りてひれ伏す。

「申し訳ありません!先程リリアン様を馬車で市場へお送りしていたところ、野盗に襲われリリアン様が連れ去られました!」
「なんだと?!」

クリスティーナはハッと息を呑んで駆け寄る。

「場所はどこ?」
「西の大通りから一本逸れた脇道です」

それを聞くと、クリスティーナは使用人の手から手綱を奪って馬に飛び乗った。

「クリスティーナ!早まるな!」

父の声を背中に聞きながら、クリスティーナは一気にスピードを上げて馬を走らせた。
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