ミステリアスな王太子は 花嫁候補の剣士令嬢を甘く攻め落とす
戦地へ
「第一部隊、整列!」

朝靄の中、オーウェンのキビキビとした声が響き渡る。

詰め所で仮眠を取った隊員は、早朝五時に王宮の裏庭に集まった。

季節はまだ秋だが、頬に触れる空気はひんやりと冷たい。

ずらりと一列に並んだ第一部隊の端には、入隊したばかりのフィルとクリスティーナの姿もある。

この二人について、ひと晩頭を悩ませていたハリスは、結論を出せずに仕方なく流れに任せることにした。

近衛隊全五部隊が集まると、ハリスは声を張って士気を高める。

「これより西の国境、イズールを目指す。必ずや敵国の侵入を阻止し、我がコルティア王国の平和を守り抜く。行くぞ!」

うおー!と皆が雄叫びを上げて馬に飛び乗る。

「フィル!クリス!俺のそばを離れるな」

振り向いて二人に声をかけると、オーウェンはハリスのすぐ後ろについた。

クリスティーナはフィルと共にオーウェンのあとを追う。

(さすがは精鋭部隊と言われるだけあるわ。すごい速さ)

乗馬には自信があったクリスティーナだが、今はついていくのが精いっぱい。

(これで敵と戦うことになれば…)

そこまで考えると、クリスティーナはゴクリと唾を飲む。

(怯んでいる場合じゃないわ。私が必ずお父様をお守りする!)

クリスティーナはグッと奥歯を噛みしめると、オーウェンの先、左手だけで手綱をさばく父の背中を見据えた。
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