レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
「ディロフルア姫。君好みの髪色と瞳の色を用意しただけで、簡単に僕になびいてくれて助かったよ」
「そんな……! わたくしのことを愛しているとおっしゃっていたではありませんか! 『貴女は姉君よりもずっと美しい』って! 何度も何度も!」
「そりゃ言うさ。諜報任務に必要なことだったからね」
「ひどい……! 口付けはおろか抱擁すらしてくださらなかったのはそれが理由でしたのね!? 婚姻前だからなどと言い訳をして!」

 武器を取り上げた兵を膝で押さえ込んでいるユフィリアンが顔を上げ、妹に視線を向ける。そのまなざしには一切の感情も込められていなかった。

「君が僕を手駒のひとつとして扱い、愛そうともしなかったことに安堵しているよ。多少なりとも僕に対する情が君の中にあったなら、こうして皇帝陛下の(めい)を実行する際に胸が痛んだだろうからね。……まあ、結末は何も変わらないわけだけど」
「ひどい、ひどい! あんまりだわ……!」

 ディロフルアがその場にへたり込む。ユフィリアンはその様子に何の関心も示すことなく、正面に視線を戻すと魔導師と言葉を交わした。
 魔導師が頷くのを見てから、おもむろにその場に立ち上がる。途端にうつぶせ状態の兵士が身をよじり出したものの、他の兵士と同じく、床に縫い付けられたかのように動けなくなっていた。

 父王が顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。

「ぐぬぬ……。誰か! 誰かおらぬか! シュハイエル公爵をただちに捕らえろ! 一族郎党もだ! 抵抗するならば殺しても構わぬ!」
「ルジェレクス皇帝陛下。シュハイエル家一同、既に越境し、みな無事であると連絡を受けております 」

 すかさずユフィリアンが報告の声を被せれば、ルジェレクス皇帝がわずかに頷く。落ち着き払ったその態度に、すべてが首尾通りに行っているであろうことがうかがい知れる。

「ではでは~♪ 仕上げといきますかね~」

 魔導師が今度は人差し指をぴんと伸ばして空中に楕円を描く。
 すぐさま天井に光の渦が出現し、その中から見慣れない鎧をまとった兵士たちがひとりまたひとりと寝室へと飛び降りてきた。彼らの身に着ける鎧には、帝国の紋章が刻み込まれている。
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