レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
「君が僕を手駒のひとつとして扱い、愛そうともしなかったことに安堵しているよ。多少なりとも僕に対する情が君の中にあったなら、こうして皇帝陛下の(めい)を実行する際に胸が痛んだだろうからね。……まあ、結末はなにも変わらないわけだけど」
「ひどい、ひどい! あんまりだわ……!」

 ディロフルアがその場にへたりこむ。ユフィリアンはその様子になんの関心も示すことなく正面に視線を戻すと魔導師と言葉を交わした。
 魔導師がうなずくのを見てからおもむろにその場に立ちあがる。途端にうつぶせ状態の兵士が身をよじりだしたものの、他の兵士と同じく床に縫いつけられたかのように動けなくなっていた。

 父王が顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。

「ぐぬぬ……シュハイエル公爵をただちに捕らえろ! 一族郎党もだ! 抵抗するならば殺しても構わぬ!」
「ルジェレクス皇帝陛下。シュハイエル家一同、既に越境し、みな無事であると連絡を受けております 」

 すかさずユフィリアンが報告の声を被せれば、ルジェレクス皇帝がわずかにうなずく。落ち着き払ったその態度に、すべてが首尾通りに行っているであろうことがうかがい知れる。

「ではでは~♪ 仕上げといきますかね~」

 魔導師が今度は人差し指をぴんと伸ばして空中に楕円を描く。
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