名ばかりの妻ですが、無愛想なドクターに愛されているようです。

「その時は、うんと言うまで離さない」
「それじゃあ、ただの脅迫ですよ?」
「俺は本気だ」
「……もう!無茶苦茶です!」

 雛未は観念して祐飛の胸に飛び込んだ。
 雛未をこんなにドキドキさせる男性は、世界広しといえど祐飛しかいない。

「結婚します!っていうか、もうしてます!」
「ああ、そうだったな」

 すっとぼける祐飛にぎゅっとしがみつく。
 なんとはなしに目が合うと、互いに微笑みあった。
 なんて幸せなんだろう――。

「祐飛さん、私と結婚してくれてありがとう――」

 家族になってくれてありがとう。
 愛してくれてありがとう。
 この街に来てよかったと、今、心から思えるのは祐飛のおかげだ。
 ――過去は変えられない。
 だから、苦しみも悲しみも後悔もすべてを糧にしてこれからも生きていく。
 この街で手に入れたものを、生涯かけて大切にしていきたい。

「愛してる――」
「私も祐飛さんを愛しています」

 名ばかりの妻だったけれど、そうとは知らず随分と愛されていたらしい。
 そして、今となっては雛未も祐飛を心から愛している。

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