八月の蛍、あの夏の歌

16

 石段を下りて灰坂と別れた僕は達成感と疲労感でいっぱいになり、いつも以上にダラダラと家まで歩いた。
 思った以上に気を張った時間だった。でも、それ以上に収穫があった。これから、灰坂と音程直しの秘密特訓が始まる。ほとんど思いつきの計画はまだ初期段階だったけど、今の所、問題は無い。でも楽観的になるとこの前みたく見誤る事になる。気は常に引き締めて、冷静にいかなくては。
「よし!」
 僕は両頬をパシンと叩いて気合いを入れて、家まで走った。


 ————僕は灰坂と話す時、もし僕がイジメられていたらと考えながら言葉を探した。
 そこで辿り着いた答えは言葉よりも、まず善人ぶらないという事。
 友情をひけらかさない。
 相手のペースを崩さない。
 そして、深い傷をつけない程度に物事をはっきり言って、嘘をつかない事を示す。
 大雑把にこの四つ。他にも頭をフル回転させて色々と考えていたけれど、何より一番大事にしたのは「音痴」と言わない事。
 これは自分がそうだったからこそ分かる事だった。この言葉って意外にけっこう傷つく。地味に鋭さがあるんだ。だから僕は「音程が悪い」って言いい方にしている。意味は同じなのに鋭さは違う、まるで違うんだ。
 なんてカッコつけて言っているけれど、実はただの受け売りだ。
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