私と彼の溺愛練習帳
「ごめん、無理」
 雪音は答え、体を離した。
「どうして?」
「……言ったよね、期待に応えられないって」
 木に巻きつけられたイルミネーションが目に染みて、顔をそむけた。
 あなたが欲しい、と言われた。つまりはそういう意味だろう。

「欲しいって、体のことじゃないよ」
 彼はまた雪音を抱きしめる。服越しに体が触れ合い、居心地が悪かった。彼はそっと耳にささやく。

「僕のこと、嫌い?」
「……嫌いじゃない」
「キスは?」
「え?」
「キスはいい?」
 惣太とは、キスくらいはしていた。

「うん……」
 答えた直後、唇を塞がれた。
 触れるだけで、彼はすぐに離れた。

「なにするの!」
「ちゃんと聞いたよ」
「そういう意味だとは思わなかったの!」
 今キスをしてもいいかどうかの質問だとは思わなかった。

「もう遅い」
 閃理は再び唇を重ねる。
 なぜか抵抗できなくて、雪音はそんな自分に戸惑った。
 イルミネーションはただ無言で二人を照らしていた。



 いいって言ったんだから。
 そう言って、閃理は毎日、雪音にキスをする。
 頬に、額に、鼻に、まぶたに、首筋に。
 そのときの気分で、彼はついばむようにキスをした。
 今までにもされていたが、回数があきらかに増えた。
< 54 / 192 >

この作品をシェア

pagetop