身代わり娘の逃走計画

「旦那様、畏れながら申し上げます」


 頭を抱え出した旦那様に、私はある考えを打ち明けてみた。荒唐無稽で、必ずしも成功するとは約束できない計画だ。


「しかし、それは──」


 案の定、旦那様は難色を示した。だがここで引き下がるわけにはいかない。


「必ず成功させてみせます、旦那様やこの店の皆を死なせるわけには参りません」

「お前の身が誰より危うくなるのだぞ!?」

「私一人であればどうとでもなります」

「待て、この店の全員で逃げよう?」

「旦那様!」


 まだ反対しようとする旦那様を、私は正面から見据えた。唇を引き結んだ旦那様を見て、私は椅子から立ち上がると額付いて話を続けた。


「旦那様、孤児であった私を拾ってくださり、今日まで行商のお供をさせてくださったこと、心より感謝しております」

「暁燕、お前──」

「今ここで、その恩を返させていただきたく存じます」

「……待て、待ってくれ、儂はこんなことのためにお前を──」

「どうか、ご達者で」


 旦那様は再び目元を片手で覆うと、「すまない、すまない……!」とすすり泣き、もう片方の手で私の手を握りしめた。

 十数年前にこの手に拾われてからというもの、この人の、ひいては店のためにとなんでもしてきたが、きっと今日この日のために私は生きてきたのかもしれない。

 私は旦那様が泣き止むのを待ってから、計画を着々と、淡々と進めた。他の使用人たちには悟らせないように、旦那様と二人だけで静かに、静かに──。
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