魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない

3.2

 がらんどうの広間に、待ち侘びていた声が響いた。

『魔王様?』

 玉座に座っていた魔王がはっと顔を上げた。

 侍従長はそれに気づき、首を傾げた。

「どうかされましたか?」

 どうやら侍従長には彼女の声は聞こえないらしい。実際には、魔王の頭の中でのみ響いていたのだ。

 普段とは立場が逆になっている。

 この声が聞こえるのは自分だけだと思うと、胸の奥が震えた。

「花嫁だ!」

『私の声が聞こえますか?』

(うん、はっきり聞こえてる!)

『花嫁になる準備が整いました。魔界に呼んでくれますか?』

 この瞬間まで不安でいっぱいだった反動からか、喜びで打ち震えそうになる。

 交渉は決裂したのかと諦めかかってすらいた。

 やっぱりあんな対価をねだるべきではなかったと後悔もした。

 魔王は力強くこぶしを握った。

「今からここに呼ぶぞ、いいな?」

 侍従長は頷いた。

「かしこまりました」

 どうとでもなれ……という顔をしている。
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