さまよう綸

第4話

 翌日は正宗と先生が一緒に部屋へ来た。先生は私の足首の治療をして帰り、私は正宗と一緒に食事することとなる。彼は部屋を見回すこともなく、ただ私がきちんと食べるかを見て、自分も食べるという風だった。

「…ねぇ…もう持って来なくて大丈夫だから…昨日と今日はありがとう」
「…」
「ねぇ…聞いてる?」
「正宗」

 はぁ…またか、二人しかいない部屋でわかっているのに呼ばせる意味は?わからない…

「正宗、ご飯ありがとう。もう大丈夫だから」
「俺が来たいから来た」
「…そう…?来てもらっても面白くもなんともないわよ、この部屋も私も」
「俺が邪魔か?」
「…」
「来ない方がいいのか?」

 お願いだからその無駄に子宮を刺激する声と顔は止めて欲しい…だけどね、誰とも馴れ合うつもりはないんだ。

「そうね…私一人が好きなの」
「俺は綸が好きだ」

 はっ?音を被せてきたかと思ったら突然何を言うんだ。

「…頭、大丈夫?何をもってそうなるの?」
「俺は綸と結婚する」
「はぁ?」

 さらにおかしな単語を発した正宗に向かって短く叫んだ。

「私は結婚しないわよ、誰とも」
「俺とする。俺とすればいい」
「…」
「今すぐにするか?」
「…」

 彼は何を言ってるんだろう…ってか…いつまでいるの?

「ねぇ…正宗、帰らないの?」
「帰って欲しいのか?」
「…ちょっと昼寝しようかなと思って」
「すればいい」
「…」
「添い寝してやろうか?」
「さっきから電話鳴ってるんじゃない?」

 チッっと舌打ちして電話に出た正宗は、帰る様子を見せず話をしている。よくわからないが普通の一般企業の会社員と変わらない会話をしているようだ。聞いているのもどうかと思いイヤホンを付け歌手マサムネの声を楽しむ。

 ♪~~♪

 あーちょっと体ダルい…あちこちの傷の回復に体力使ったな…でも明日はもう大丈夫な気がする。今まで何でも基本的には寝て治して来たんだ。感覚的にわかる…明日は大丈夫…壁にもたれて足を投げ出し、目を閉じて好きな歌声を聞きながら、ほんの僅かに私の口角が上がったのを正宗が見つめていたことは知らなかった。
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