さまよう綸

第7話

 そうして始まった慣れないマンション生活は、まだ4日目だが仕事がある事で生活リズムが出来てきた。正宗たちは此処で出来る仕事をする時間帯もあるが、一日中いるということはない。私は彼らの不規則な出入りに困惑しそうになりながらも淡々とパソコンに向きあい、あとはキッチンに立つことにした。

 仕事は1日3時間前後で終わってしまう。会社のデスクでやると電話対応や来客対応などで倍の時間がかかるであろう内容だが、此処で一人で作業すると早いものだ。そして上でキッチンを使おうと思ったら何一つ調理具がなかった。正宗がすぐに買いに行こうと言ったのだが、瀬口さんの奥さんに下のキッチンでお料理を教えてもらうことにした。ご夫妻とももちろん瀬口さんなので皆と同じように奥さんのことをセツさんと呼ぶ事にして、作ってみたいものを前日に言っておくことになった。

 料理はしてみたかったんだ。施設では当番制で手伝いをしていたから出来ないことはない。ただ大人数分作るのでメニューは決まりきっている。アパートでは物を持たない生活を徹底していたのでほとんど料理していない。だから上で素敵なキッチンを見て正宗に使っていいか聞いたんだけど…何もなかったという訳だ。

「しばらくセツさんに教えてもらって、それから上に綸の好きなようにキッチン道具揃えるぞ」

 昨日そう言った正宗は何故かチキン南蛮をセツさんにリクエストしていた。私が作りたいものを言うはずだったのにおかしいと思ったが作った事がないものだからいいかと思い、今セツさんの隣で私は鶏を揚げている。

「タルタルソースが思ったより簡単だったから次は一人で作れそうです」
「良かった。タルタルソースは普通のチキンカツや魚のフライにも使えますよ」

 そして今日は6時過ぎに帰って来た正宗たちと4人で夕食をとる。

「綸、旨い。上手く出来たな」

 正宗は自分のリクエスト通りでご満悦だ。このあと3人はクラブや風俗店でオーナー直々に帳簿チェックをして回収してくるらしい。

「じゃあ明日は入力多いと思うけど、綸ちゃん頼むね」
「ご馳走さま。行ってきます」

 潤と駿が先に部屋を出てから正宗は私に軽くキスをし

「行ってくる。おやすみ綸」
「いってらっしゃい」

 朝からここまでは多少の違いはあっても4日間で問題を感じなくなってきた。しかしここから夜が問題なんだ。眠れない。初日ベッドで眠れず、次はソファーで寝てみたが眠れず、昨日もベッドでごろごろしながら朝を迎えた。もちろん眠いのでうとうとするがそれ以上は眠れない。柔らかいのがダメなのか?いや、鞠子さんのところでふかふかの布団で眠れた。この天井が高く広い部屋のせい?そう思い今夜は、上掛け一枚持ってクローゼットに入り寝てみることにする。

 ああ、寝られるな…ふわふわ揺れて気持ちいい…?揺れる?でもやっと眠れた瞼は固く閉じて開かない。朝まで夢にも邪魔されず眠りたい。
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