さまよう綸

第9話

 1ヶ月程経ったある日、アルバイトしていたキャバクラのママから連絡があった。4ヶ月くらい行ってないな…そう思いメッセージを見ると、急で悪いが明日明後日のヘルプをお願いしたいと書いてある。了解と返し考える。

 ここからは少し距離がありそうだがあまり外へ出ておらず、出ても地下から車で出かけるので最寄り駅がわからない。何時に出ると間に合うのかちょっとわからないな。

 マサムネの歌を聞きながら正宗たちの帰りを待つ。今夜は一緒に夕飯を食べられる時間だ。

♪~〜♪

「「〜〜〜♪」」

 はぁ…潤と駿の声がマサムネの声を消し彼らの帰りを告げる。

「おかえりなさい」
「ん、ただいま」

 額にキスをする彼の声は甘く、まだ慣れないから逃げるようにキッチンへ行き食事を運ぶ。そして食事をしながら聞いてみた。

「ここの最寄り駅って何駅?」
「綸、どこか行きたいのか?」
「うん。明日と明後日アルバイト」

 3人の箸がぴたっと止まり正宗が聞き返した。

「アルバイト?」
「うん、知ってるでしょ?私がキャバクラでアルバイトしていたこと。明日明後日のヘルプを頼まれたから行き方を聞こうと思って」
「却下」
「えっ…教えてくれないの?」
「バイトを却下だ」
「どうして?」
「男の相手させるわけないだろ」

 低く言われ考える。そういうものか…私にはその感情がわからないのかな。仕事は仕事としか思わないしもちろんそこに感情はない。仕事どうこう以前に感情というものがなかったから当然だ。常に私は‘私’でしかなく相手が目の前にいても隣にいても‘私たち’というものは存在しない。今ももちろんそうだ。

「ママには私の都合いいようにお世話になっていたから今回だけは行く。お先にごちそうさまでした。ごゆっくり」
「綸…行くなよ」

 立ち上がった私の手を掴んだ正宗は強く言うが響かない。

「今回だけは行くよ」
「どうやって?」
「早めに外に出れば何とかなるでしょ。ご心配なく」

 にっこり笑うと皿をキッチンに運ぶ。その後ろで正宗たち3人がボソボソ話す気配がした。

「綸ちゃん、座ってくれる?明日のこと話そう」
「うん、ありがとう。でも大丈夫だから。また明日の朝ね」

 潤が声を掛けてくれるが面倒なやり取りはいらない。階段へ向かう私の背中に駿の困ったような声が届く。

「綸ちゃん、怒らないで話そうよ」
「えっ?全然怒ってないよ。駿たちは駿たちの考えがあって当然だから…それが私と違っても当然だから、怒ってもいなければ何も思ってない。感じ悪かったらごめんね」
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