果物のように甘いだけじゃない

「おはようございます。初瀬美羽〈はせ みう〉と申します。初めての部署で不慣れなこともありますが、頑張りますので、どうぞよろしくお願いします」


パチパチパチと拍手で迎えてくれた新部署の広報部。
会社の商品の宣伝をしたりする部署で色々と忙しいらしい。
今までは総務部で地味な仕事をしていた私にとっては、畑違いの仕事で不安な気持ちでいっぱいだった。

朝の朝礼で挨拶をして自分の席に着くと、隣の席の美濃千奈津〈みのう ちなつ〉が資料を渡してくれる。私と同期であり、一年早くリーダーになった千奈津とは入社当時から仲良くさせてもらっていた。


「美羽と同じ部署で働けるなんて、嬉しいわ」
「私も千奈津がいるから心強いよ。色々とお世話になりますがよろしくお願いします」

改めて頭を下げるとニッして私を見つめていた。
細くてスタイルがいい千奈津は、ふわっとしたワンピースを着ていて腰にベルトをしている。巻いた髪の毛が揺れていて耳を出すように髪の毛を結んでいる。本当に綺麗な子だ。


「さて、早速新商品のCM会議があるから出席してもらうわよ」
「はい」

笑顔を向けて返事をした。

――千奈津も、大くんとの過去のことは知らない。家族と数少ない限られた友人しか知らない過去なのだ。封印したんだから、思い出す必要はない。無かったことにしたんだから……。


今日から新たな毎日がはじまる。
新しい年度で、新しい場所で、新しい役職で新たな気持ちで前向きにいこう。一生懸命頑張れば、きっといいことがある。過去をスッキリ忘れられることを願って、私は会議室に行くために立ち上がった。
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