先日、芸能界を引退した推しが殺し屋になっていました
くれてやろうと冷蔵庫から持ってきてやったひとつの肉まんを手にした女は困惑した様子だ。

上目遣いでうるうるとした瞳を真っ直ぐに向けてくる。

「…あまりもんだし」

「ふわはぁあああっ……」

変な声を発した女は「推ししか勝たん!謹んでいただきます!」と叫び、肉まんを頬張った。

って!

あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!

何世話焼いてんだよ! 俺!!

幸せそうにもぐもぐする女を前に唐突に押し寄せてきた自己嫌悪で俺は頭を抱えた。

「ごちそうさまでした……っ」

「ん。じゃあ帰れ。寝床は用意してやらんからな」

「も、も、もちろんでございます……!推しに迷惑をかけるなど言語道断!ヲタクの道に反します……!」

徹底的にうるせぇ奴だなぁ、こいつ……。

などと呆れつつも、帰ろうと俺に背を向けた女をボーと眺める。

「今日はありがとうございました!推しが新たな世界で頑張っているんだ、と知ることが出来てとても嬉しかったです。私も…っ、もう死にません!生きます! あ、もしよければですが……」

女はそこで言葉を止め、モジモジと指をいじり始めた。かと思ったら意を決したように、続けた。

「次回の殺しのお仕事…っ、もし告知して頂ければペンラと痛バ…、そしてうちわ、双眼鏡…、その他諸々持参の上、必ずや参戦させて頂きますねっ」

「呼ぶか! 馬鹿野郎!」
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