婚約者の浮気相手は母でした。
「そういう所が、本当にずるい。あなたは、最後の一歩をいつも踏み込ませてくれない」
「当り前よ。これは一時の気の迷いなのだから」
「気の迷いか……まあ、いつかそれを変えてみせますよ」

 私の眼前で、二人はゆっくりと口づけを交わした。
 その様子に私は、吐き気を覚えていた。なんというか、とても気分が悪い。

 母親の女としての一面が、自らの婚約者に向けられているという事実には、やはりそれなりの衝撃があった。
 その愛が父に向けられているなら、気まずいながらも微笑ましいと思えただろう。だが、それが外部に向けられているという現状は、泣きたいくらいに悲惨だった。

「……行かなきゃ」

 そんなボロボロの心情でも、私はなんとか自分を奮い立たせる。
 これから私には、やらなければならないことがある。気は進まないが、これを放っておく訳にもいかないので、とにかく行動するしかないだろう。
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