早見さん家の恋愛事情
case2 恋愛初心者(ルーキー)―次女花菜の場合―前編

 朝の六時起床。私の朝は、身なりを整える所から始まる。
 欠伸を漏らしながらベッドから出て、クローゼットを開ける。今日は特別だから一番のお気に入りにしよう。白いブラウスに花柄のジャンパースカートを選んで着用。
 姿見の前まで移動しておかしい所がないか確認。腰元のベルトを少しきつめに締めたら少しはスタイル良く見えるかな?
 それから洗面所へ行って、髪の毛を入念に手入れ。まずは櫛でといて、それからアイロン。背中まで伸びたボブヘアはスタイリングするのも時間がかかる。
 メイクもしておかなきゃね。いつもよりナチュラルをイメージして、リップの色も桜色ぐらいがちょうどいいかな?
 時計を見ると、まだ余裕はある。「よし」と鏡の中の自分にゴーサインを出して、今度向かうのはキッチン。
 朝ごはんの支度。今日のメニューは何にしようかなー?
 りずは何を作っても食べてくれるし、りかは嫌いなものが出ても頑張って食べるし、問題は由良なの。好き嫌いが多いと言うか――違うわね。食に対する興味が薄いが正しいわね。
 それに何より、由良は朝が弱い。だから、余計朝ご飯に抵抗があるのかも。でも、花菜お姉ちゃんはそんな風に甘やかしません!

「あ、おはよう。花菜」
「爽兄ちゃん!」

 朝ごはんの献立を考えていたら爽兄ちゃんが起きて来た――というよりは、もう出かけるみたい。
 先生の朝は意外と早いのよ。

「おにぎりぐらい作ろうか?」
「いいよ。適当に買っちゃうから。それにしても、もう出て行っちゃうのか……」

 そう言いながら、眼鏡の向こうにはキラリと光るものが。

「そんなに気にすることないよ。いつでも帰って来れるから」
「じゃあ、毎日帰って来て」
「それは無理かな」
「花菜だけに?」
「早く行けば?」
「ごめんって」

 他愛のないやり取りに二人して噴き出す。毎朝していたことだけど、いざ出来なくなると思ったら寂しいな……。そんなこと言ってられないんだけど。
 少し笑い合った後、今度は仕返しをする。

「りかのことよろしくね。爽兄ちゃん」

 爽兄ちゃんは鳩が豆鉄砲を食ったような表情で暫く固まっていた。
 でも、出てきた言葉は――

「――もちろん」

 私、二人のこと応援してるの。もちろん、そういう意味で。二人は隠してるつもりだろうけど、花菜お姉ちゃんにはお見通し! まぁ、どうするかは二人次第だけど。どんな結果になっても、二人が幸せになる未来を願ってる。

「じゃ、行って来るよ」
「行ってらっしゃい!」

 玄関まで見送って、扉が閉まるまでその場に留まる。パタンと扉が閉まったのを確認して、背を向けると、ガチャッと玄関の開く音。

「花菜~」
「だから、また帰って来るって!」

 どれだけ寂しいのよ!
 うちの親は過保護で困るわ。




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