この結婚には愛しかない

婚約指輪のお返しに何がいいかなあとずっと考えていて、伊織さんが昨日湊さんとスーツを新調したいと会話されていたので、プレゼントさせてもらうことにした。


助手席から車を発進させる運転姿を見て心奪われて。

私の視線に気付いて、「ん?」って笑ってくれる伊織さんが愛しい。


「大好きな伊織さんと夫婦になってこのお店に来れるんだよって、3年前の自分に教えてあげたいです。ウンベラータの“神田さん”を買いに来たときには、本当に悲しくて寂しくて...」

「もう2度と悲しい思いはさせないよ。出張で長期間家を空けることがあるから寂しいかもしれないけど、可能な限り連絡するし、これからは家中に俺の存在を感じれない?それに...」

膝の上に置いていた左手を取って「これもあるでしょ?」と薬指に唇を押し当てた。


「3年前に忘れていった大切な宝物を取りに戻って、一緒になれて。莉央がいてくれたら夜眠りにつく時も、朝目覚めた瞬間から幸せなんだ。新居での莉央との生活が楽しみだよ。改めてよろしくね」

「はい、あの、私も...」

「ほら泣かない。お腹すいたら泣くのかな?」

「違いますっ」


車を走らせながら、伊織さんが「何食べようか」と笑うから、一緒に笑った。
< 172 / 348 >

この作品をシェア

pagetop