この結婚には愛しかない
17時の5分前に4人で専務室に向かっていると、ちょうど伊織さんが部屋から出てこられた。


「体調どう?」

「大丈夫です。ご心配をお掛けしてすみません」

「ん、よかった」

すれ違いざまに声を掛けてくれて、そのままドアを手で押さえて、私たちを招き入れてくれる。


「室長、電話しますから」

「かしこまりました」


伊織さん不在の専務室。大きな窓の外はまだまだ明るい。

3人掛けのソファーに佐和と並んで座り、向かいに大森室長と長谷川くんが座った。

大森室長がスーツの胸ポケットから社用スマホを取り出し、センターテーブルの上に置いた。


「(なんの打ち合わせが始まるんだろう)」

きっとそう思ってるのは私だけだ。他の3人は神妙な顔つきでスマホを見ている。


それからすぐ、伊織さんから着信があった。

大森室長が通話ボタンを押し、スピーカーにされた。


『やっとお会いできました。今日はお時間をちょうだいし、誠にありがとうございます』


ひゅう、と喉がなる。支店長だ。

その声を身体が拒絶した。逃げ出したくなった私の腕をぎゅっと捕まえたのは佐和だった。
< 201 / 348 >

この作品をシェア

pagetop