この結婚には愛しかない
「嬉しいな。こんなかわいい奥さん、変な虫寄りつかないか、俺一生心配だよ」

「全然です。私の方が心配です」

指先に触れていた神田さんの手が、それでね、と私の左手を包みこみ僅かに力がこもる。


「ベタだけど、今夜部屋を取ってるから来て欲しい」

「...はい」

「早く2人きりになろう」


急かされ席を立つと、神田さんが着ていたスーツのジャケットを脱いで肩にかけてくださった。暖かくて、いつものいい香りに包まれて、胸がいっぱいになる。


「ありがとうございます。少し冷房が効いてて肌寒かったんです」

「んー、そんな可愛い小泉さんを人目に晒したくないだけだよ」

レストランを出る時も花束を抱える私の腰をがっちり抱いて離してくださらない。


「会社が契約してる部屋に私がお邪魔していいんですか?」

「ちゃんと個人的にとった部屋だよ。今日は記念日だからね」

さらに上にあがるエレベーターの中は2人きり。私は緊張でガチガチで。

目が合って、恥ずかしくて顔を逸らした私のこめかみに「ベタなプロポーズでごめんね」と、そっとキスをしてくださった。


「とっても嬉しかったです。まだ夢のようで...世界一幸せです」


いつものように、ははっと笑った神田さんが。


「これからもっと幸せになるんだけどね」


花束ごとハグしてくださった。

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