あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
10.彼女から手紙が届いた日
 イーモン・カールは目を通していた書類から顔を上げると、目頭をぎゅっと指でつまんだ。
 姉のウリヤナが聖女と認定され神殿へと入ってから、三年が経った。その三年の間に、彼女は王太子クロヴィスの婚約者という地位にまで登りつめてしまった。
 ウリヤナは姉でありながら姉ではなくなったのだ。つまり、ウリヤナ・カールから聖女様へと変わってしまった。さらに、将来の王太子妃を約束されている。
 聖女として神殿に入ることを、父親は最後まで反対していたが、そんな父親を宥めたのはウリヤナ本人であった。
 それほどまでして聖女になりたいのかと、当時のイーモンは思ったのだが、今になってなんとなくわかるような気がする。
 ウリヤナは金のために聖女になったのだ。
 聖女を輩出した家には褒賞金が支払われる。
 その褒賞金によって、カール子爵家が潤ったのは事実だが、だからといって生活が豊かになったわけではない。
 いつ、どこで、何が起こるかわからない。有事の際に備える必要がある。
 それが父であるカール子爵の考えで、ウリヤナの名でもらった褒賞金は父親がしっかりと管理している。
 だから、イーモンはその金を使うことができない。
 ウリヤナが神殿に入ったのも、金のためだった。
 彼女がそれほど金を欲していたのはカール子爵家と子爵領に住む民のためでもある。
 ウリヤナが聖女となる前、カール子爵家の資産は一気に減っていた。まさしく火の車という表現が合うほどの状況である。その状況を生み出したのは、イーモン自身であった。まだ十三歳であった彼が、カール子爵家の資産に手をつけた。
 そもそも父親は管理がずさんな人間だった。
< 94 / 177 >

この作品をシェア

pagetop